武田邦彦氏の売り歩く放射能デマ

原発事故で流された大量のデマには二種類ある。 一つは小出裕章氏のように、自分の専門領域(原 子炉工学)については正確だが、専門外の分野 (放射線医学)については間違っている話、もう 一つは宮台真司氏や自称ジャーナリストのよう に、どっちの専門家でもない人々のでたらめな話だ。

後者は論評の価値もないので放置していたが、理 科系の大学教授(一見すると専門家に見える)の 肩書きででたらめな話をしている武田邦彦氏は、 あまりにもひどいので放置できない。彼の放射能 デマの白眉は、この3月14日の記事だろう:

現在の状態で「原子炉が爆発する」可能性は3つある。 1) 水素爆発: 露出した燃料に水が接触して 水素を発生し、炉の外にでて酸素と結合して爆 発する(化学反応)、
2) 水蒸気爆発:高温の物体に水が接して急速に水蒸気になり、その体積膨張で爆発する(物理 的爆発)、 3) 核爆発:燃料が溶けて固まり臨界状態に達 して原爆となる

原発が「核爆発」するなどという人物が工学部に 在籍しているのは、恐るべきことだ。さすがに彼 も自分のブログではこの記述を削除したが、ウェ ブ上にはたくさん証拠が残っている。その後、彼 はテレビで「(東北の野菜は)健康を害しますか ら出来るだけ捨ててもらいたい。畑に青酸カリが まかれた」と発言して一関市長から抗議を受け、その返信で

放射性セシウム137の{成人、経口}での50%致死量は0.1ミリグラム程度です。これに対 して青酸カリは{成人、経口}で50%致死量 が200ミリグラム程度ですから、青酸カリの方が 約2000倍ほど毒性が低いという関係にありま す。

と説明したが、これは多くの人々の指摘するよう に、とんでもない誤りである。0.1mgのセシウム 137は50年間に4Svの放射線を出すが、セシウムは 体内に吸収されないので、
数日で排出される。そ もそも0.1mgのセシウム137を摂取するには、暫定 規制値500Bq/kgの野菜を数百トン食わなければならない。きょうの記事では、

「被曝と人体」についてはほとんど判っていないので、学問で決めることはできず学者や医師 は発言を控える必要がある。もし目の前で被曝 している人がいないときなら自由な議論が必要 だが、被曝している間は学問は無力であり、社 会のコンセンサス(1年1ミリ)を尊重しなけ ればならない

と書いているが、何を根拠に「ほとんど判っていない」などといっているのか。被曝と健康被害の 関係については、不幸なことに広島・長崎の被爆 者12万人のデータがあり、きわめてくわしく正確 にわかっている。その被爆者の調査をした近藤宗 平氏もいうように、100mSv以下の被爆者には統計 的に有意な健康被害が出ていないのだ。

武田氏は「科学的根拠のない話をするな」と批判されたのに対して逃げを打っているのだろうが、 「社会のコンセンサスが1年1ミリ」だから尊重 しろというのは、科学者としての責任放棄であ る。同じ論法でいえば、彼の批判している地球温 暖化についても、国連で「社会のコンセンサス」 ができているのだから議論するなということにな る。「目の前で被曝している人」がいるからこ そ、正確な基準を決める必要があるのだ。

最近の彼の記事には、こういう逃げ口上が目立つ。事故の直後に思いつきで危険をあおってみた ら多くの科学者から批判を浴び、「国の基準」を 論拠に反論したらその基準に科学的根拠がないこ とがわかり(これは彼も認めている)、いよいよ 「社会のコンセンサス」なる曖昧な基準を持ち出 してきた。もういい加減にデマを売り歩くのはや めてはどうか。本と講演で十分もうけただろうから。

2011.10.7池田信夫blog から転載