何が正しいのか…

「正直何が正しかったのかいまだに分からない」。福島県産の花火の打ち上げを中止した愛知県日進市の萩野幸三市長が22日、花火店などへの謝罪後、報道陣に向けて吐露した言葉だ。

問題は18日夜、同市で行われた「にっしん夢まつり・夢花火」で起きた。復興を支援しようと、被災3県の花火を含め計2千発の打ち上げを予定していたが、市民から「汚染された花火を持ち込むのか」などとクレームが相次いだ。

市や商工会でつくる実行委員会は福島の花火を打ち上げないことを決め、福島県川俣町の煙火店が作った80発を、愛知県内で製造された別の花火に差し替えた。

市民からのクレームが約20件だったのに対し、中止後に全国から寄せられた苦情は約3500件。「市民が不安を感じる状況で打ち上げは難しい」としていた萩野市長も、「新たな風評被害への心労を招いた」と謝罪に追い込まれた。

8月に京都市で行われた「五山送り火」でも同種の問題が起きた。震災の津波でなぎ倒された岩手県陸前高田市の国の名勝「高田松原」の松で作ったまきを燃やす計画が「放射能汚染が心配」などとする市民の声を受け二転三転したあげく中止となった。

門川大作市長は、松の表皮部分から1キロ当たり1130ベクレルの放射性セシウムが検出されたとし「科学的見地に基づいた結果。風評被害の助長にあたらない」と説明したが、大津留(おおつる)晶長崎大学病院准教授によると「吸い込んでも健康に影響がないレベル」だった。

また、福岡市では、風評被害に苦しむ福島県の生産者を支援するため、商業施設内に今月17日にオープン予定だった同県産品の販売所が、「汚染された農産物を持ち込むな」「トラックが放射性物質を拡散する」「不買運動を起こす」などという抗議メールを受け、出店断念に追い込まれている。

 ▼説明を尽くす必要

実施か、中止か。首長らはどう判断すべきだったのか。

埼玉大の松本正生教授(政治学)は「原発事故を受け、いまは世の中に冷静な判断をする余裕がなくなっており、行政は声が大きい一部の意見に流されがちだ」と中止が相次いだ要因を分析。

「どちらが正しい選択だったか一概には言えないが、政治家はいったん決断した以上、どんな根拠をもって決断したのか、その過程の説明を尽くすべきだ」と説く。

さらに松本氏は「いまは原発事故でプロ(専門家)の権威が失墜し、素人(一般市民)の直感や不安が勝っている状況だ」と説明。「専門家や政治家がいくら安全と情報発信しても、言葉が信用されなければ住民の不安はぬぐえない。

政治家は『安全』と『安心』が違うということを理解し、住民の不安払拭につながるよう、粘り強く説明を続ける必要がある」と述べた。

また、九州大の工藤和彦特任教授(原子力工学)は「花火のケースでは放射性物質が紛れ込むことは考えづらく、住民の不安には本来は理由がない」としたうえで、「今回の事故で、原子力に関わる専門家の信用が失墜してしまったことは反省している。根拠のない被害が広がらないよう、住民にも冷静な対応をお願いしたい」と語った。

産経新聞 9月24日(土) から転載