TPPは戦略の一環である

TPPをめぐって反対の声が高い。TPPとは貿易協定よりも太平洋連合を作
るのが目的で、商業より政治で中国を封じ込める製作の一環と私は思っ
ている。貿易協定なら損得論争が起きるが、政治的意味が強いなら参加
した方がよい、参加しないと除け者にされる。

●枢軸国と三国同盟

アメリカの国務長官ヒラリー・クリントンがForeign Policy雑誌の 11月
号にAmerica’s Pacific Century(アメリカの太平洋の世紀)という論文
で、将来の政治はアジアにあり、アメリカがその中心となると発表した。
これはアメリカの東亜政策を明確に示したものとして注目を浴びている。

この論文の発表後まもなく、11月にハワイで開催されたAPEC(アジア太
平洋経済協力会議)首脳会議があり、オバマが席上で何回も中国の突出
した覇権拡張は許されないと強調した。日本の野田首相は TPPに参加する
意図があることを明らかにした。

APEC会議が終った16日、オバマ大統領はその足でオーストラリアに飛び、
ギラード首相との記者会見で将来数年の間にダーウィンとオーストラリ
ア北部地域に海兵隊2500人を派遣すると発表した。

これに加えてアメリカはインドネシアに24機のF16−C/D戦闘機を提供す
る。この機種は台湾がアメリカから買いたがっていたものだが、台湾の
中華民国空軍はすでに三機が中国側に逃亡し、中国がキャッチコピーし
たので新式のF16は売らない。その新型戦闘機をインドネシアに提供した
のである。

アメリカは10年も中東における戦争に振り回され、よい結果は得られな
かった。アメリカが東アジアを放置していた10年の間に中国の覇権拡張
が顕著となり、遅まきながら将来の世界政治はアジアであるとヒラリー
オバマが宣言したことで、アメリカの政治視点が中東から極東に移っ
たことを示している。

これまでにTPP参加を表明した国は米国、豪州、ベトナム、マレーシア、
ブルネイシンガポールの他にペルーとチリがあり、カナダ、タイ国と
日本も参加を表明しているから、環太平洋連合が成立するのは間違いの
ない。

つまりTPPとは貿易協定よりも第二次大戦当時の諸国連合がドイツ、イタ
リアと日本の三国連盟を包囲したような大規模な諸国連合で中国を封じ
込める戦略である。

ヒラリーはこの論文でアメリカの政策は第二次大戦の欧州連合と同じで、
アジア政策とは「Strategic and Economic Dialogue(戦略的と経済的対
話)」と述べている。

●同盟国の総合戦力

オーストラリア訪問のあと、オバマ大統領は11月18日、インドのシン首
相、フィリピンのアキノ大統領、マレーシアのナジブ首相と個別に会談、
記者団に公開された各会談の冒頭でオバマ大統領は「海洋の安全保障」
に言及した。つまりインド洋からマラッカ海峡南シナ海台湾海峡
バシー海峡などの安全保障である。

米国は中国と周辺国が領有権を争う南シナ海について、国連海洋法条約
に則って国連で紛争を解決するフィリピンの提案を支持する方針を固め
ている。

海洋安全保障問題での主導権確保は戦略的と経済的な観点から見ても重
要で、今後のアメリカは環太平洋連合の諸国と共に「法と秩序」(Law
and Order)で中国の行動を制約する機会となる。

これこそ私がこの半年来提唱していたPASEA(東南アジア平和連盟)の構想
である。但し米国の構想は私の提唱した東南アジアだけではなく、ペルー
やチリなどの西太平洋諸国も参加させる大規模な綜合戦略である。

●中国は参加も不参加も困難

続いて19日、オバマはバリ島で開催された東アジアサミットに先立って
中国の温家寶と会見した。中国はTPPが中国封じ込め政策であることは承
知しているからオバマに対し反論を試みたが、オバマは「平和的な中国
がTPPに加入することを歓迎する」と軽くいなした。


この会談でアメリカは中国に「平和的」であれと一本釘をさしたのであ
る。メディアは温家寶の交渉は敗北だったと書いている。

温家寶がオバマに抗議した理由は、「東南アジアの問題は東南アジアで
解決すべきでアメリカは介入すべきではない」ということである。

これまで中国が南シナ海における軍事行動でベトナムフィリッピン
石油探測船のケーブルを切断したり勝手な基地建設などをしていたが、
中国は関連諸国の抗議に対し、いつでも「紛争は両国間で解決するべき」
と主張していた。

両国間交渉(バイラテラル)となれば強大な中国の主張に弱小国が抗議
しても効果はない。

TPP連合が成立すれば新たな紛争は諸国共通の「法と秩序」で解決する事
になり、中国の強引な領土拡張は出来なくなる。

これは日本にとって大きな利益となり、尖閣諸島竹島北方四島など
の領土問題は諸国間の法と秩序で解決することが出来る。また台湾の国
際的地位未決は同じく諸国の法と秩序で解決できるかもしれない。

それでは中国もTPPに加入すればどうなるかというと、中国が加入すれば
國際共通の法と秩序を守らざるを得ない。それだけでなく、アメリカや
諸国は中国元の切り上げや関税廃止を迫るだろう。

つまり政治的でも国際貿易でも中国がTPPに参加するのは不利だが、参加
しなかったら封じ込めにあって矢張り不利となる。

中国は日本に領海問題交渉を申し込むと思われる。中国はいつでも強け
れば横暴が通ると思っているので、両国間交渉で問題を解決したがる。

しかし中国との両国間の交渉で横暴な中国が譲歩することはなく、損を
するだけである。TPPに参加した日本は領海問題も諸国連合で中国と交渉
するべきだ。

● TPPは貿易面でアメリカに不利

日本ではTPPに反対する声が高いが主な理由は自由貿易になれば日本が損
をするという論が多い。しかしアメリカでも自由貿易では損をすると主
張する人がたくさんいる。

つまり自由貿易で損得勘定をすればプラスマイナス、どちらも得をする
ことはない。その代わり物価が安くなって国民は得をする。アメリカの
経済学者はアメリカがWTOの貿易交渉でいつも損をしていると指摘する。

アメリカは世界最大の輸入国である。TPPで関税を廃止すれば税金収入が
減って赤字だらけの政府は更に苦労するだろう。関税を廃止すれば輸出
も輸入も物価が安くなるので双方の国民に有利となるはずだ。アメリ
だけが得をするという理論は通らない。

これでアメリカがTPPを推進するのは自由貿易アメリカに有利だからで
はなく、戦略的に中国包囲網を作るのが主要目的とわかる。中国の覇権
進出や日本の領海侵略など、アメリカや日本にに対するサイバー攻撃
どを阻止するにはこれしかない。

●TPPと台湾問題

ヒラリー・クリントンの論文には台湾は一度も言及していない。台湾は
東アジアの真ん中に位置し、台湾海峡バシー海峡を通る船舶はキャッ
チできる。

台湾はアメリカの9番目の貿易国で、2400万人の人口を有する。ヒラリー
が台湾を無視した論文を書いたのは中国に遠慮しているからである。こ
んなバカな話はない。

アメリカがアジア政策を推進するなら、台湾の國際地位を真っ先に解決
すべきである。単独で台湾問題を解決せず、南シナ海の領土と日本の未
解決領土も含めて一挙に解決すべきである。

私はこの半年の間、PASEA(東南アジア和平連盟)を提唱してアメリカの
閣僚や議員たちにも手紙を送ってきた。つまり台湾問題は中国が反対す
るからアメリカも迂闊に処理できない。

しかし、SFTPに基いて台湾だけでなく、南シナ海と日本の北方四島、尖
閣諸島などの領土問題を一括して解決すれば東南アジア諸国の連合のほ
うが中国より強く、戦後からこれまで解決できなかった領土問題を一気
に解決し、東亜に平和が訪れることになると私が提唱したのである。

この度のTPPは東亜諸国だけでなく、南アメリカ諸国も加入しているので
問題の解決はもっと容易くなる。アジアの平和は台湾をはじめ日本、南
シナ海の領土問題の解決にある。
(在米台湾人 地球物理学者)

Andy Chang

メルマガ「頂門の一針」から転載